学生のアルバイトをめぐるトラブルが社会的な問題となっています。
本来、学生の本分である学業を無視して、学生に配慮しない対応を行うことによって、学業に専念できず留年や退学に追い込まれるような事態が起こっています。
最初の就業経験となるアルバイトでトラブルに巻き込まれてしまうと、その後の就職活動に大きな影響を及ぼしかねません。
アルバイトを始める前に知っておきたいポイントについて紹介します。

アルバイトを始める前に労働条件の確認を

雇い主はアルバイトとして働いてもらう際に、書面で伝えなければいけない項目があり、法律で義務付けられています。
あとからトラブルにならないように、以下のことは必ず確認しましょう。
・働く期限
・働く場所と内容
・開始時間と終業時間、残業があるかどうか
・休憩時間の有無
・休日や休暇の日程
・交代制の勤務の場合、交代する時間や順序など
・時給の計算方法や支払方法
・賃金(給料)の締め切り日や支払われる時期
・解雇となった場合を含めた、辞める場合の決めごと

給料は毎月、あらかじめ決められた日に全額支払われるのが原則

特に気をつけたいのが時給で、アルバイト募集時の金額と書面に記載されている金額が同じであるか確認しておきましょう。
賃金については支払いの五原則があります。バイト代は、
1.通貨で
2.全額を
3.労働者に直接
4.毎月1回以上
5.一定の期日に
支払わなければなりません。雇い主がバイト代を支払ってくれない、支払いが遅れている場合は、最寄りの労働基準監督署へ相談してください。
また、バイト代は労働契約で決まりますが、都道府県単位ごとに最低賃金が定められており、下回ることができません。

アルバイトにも残業代が支払われる

労働基準法では1日8時間以内、1週間で40時間以内と労働時間が定められています。労働基準法はアルバイトであっても適用されるので覚えておきましょう。
会社の忙しい時期は残業を頼まれるかもしれません。労働基準法によって残業にもルールが定められており、通常の賃金の25%以上の割増賃金が支払われます。
なお、18歳未満の場合、会社は残業させることができなくなっています。

お金

バイト代の税金について

アルバイトを始めるうえで押さえておきたい税金について紹介します。

学生であっても場合によっては税金を納める必要がある

学生であっても、1年間で一定以上の金額を稼いだ場合、税金を納めなくてはなりません。
親元で暮らしているうちは税金について意識する機会は少ないかもしれませんが、年間収入が100万円を超えたあたりから、住民税や取得税といった税金を納める必要があります。

都道府県や市町村に収める住民税

住民税とは国ではなく地方自治体に納める税金です。そのため、住んでいる場所によって金額が異なります。
住民税には都道府県に収める道府県民税と、市町村に納める「市町村民税」に分けられます。
それぞれ、納税者の収入によって金額が変わる所得税と、年間100万円以上の収入がある場合、均等に課税される均等税で構成されているのです。
住民税の使い道は医療や福祉のサポート、道路整備、ゴミ処理などの資金源として使われる税金です。

個人の所得にかけられる所得税

所得税は納税者の収入に応じて国に治める税金です。所得税は国税で、税務署が管轄しています。そのため、住民税とは異なり住所によって税額が変わることはありません。
収入が高くなればなるほど税額が増える仕組みになっており、年間収入が103万円を超えると納税義務が発生します。

税金の控除について

税金を計算するうえで覚えておきたいのが控除です。控除とは税金を計算するうえで、申告者の個人的事情を考慮するための制度で、収入から控除額を差し引いた金額に対して課税される仕組みになっています。
学生の場合、知って起きたいのが勤労学生控除です。納税者が勤労学生で要件を満たしていれば27万円が控除されます。
勤労学生控除の条件は、勤労による所得があること、年収130万円以下で勤労にもとづく所得以外の所得が10万円以下であること、特定の学校の学生、生徒であることです。特定の学校とは学校教育法における大学などを指します。
勤労学生控除を受けるためには、勤務先に年末調整をしてもらうよう依頼します。そして、扶養控除等申告書に勤労学生控除に関する項目を記載し、勤務先に提出しましょう。
なお、アルバイト先が複数ある場合、自分で確定申告しなければなりません。

アルバイトにも有給休暇はある

アルバイトにも有給休暇は労働基準法39条によって付与されます。
基本的に週所定労働時間が30時間以上または週所定労働日数が5日以上のアルバイトに適用されますが、学生の場合満たさない人は多いかもしれません。
そこで比例付与というものがあります。週所定労働時間が30時間未満で、なおかつ週所定労働日数が4日以下のアルバイトに適用されるものです。
例えば、所定労働日数が3日の場合、全所定労働日数の8割を働けば半年後に5日の有給休暇が与えられます。

アルバイトでも労災保険は適用される

労災保険とは、業務上の事由又は通勤により従業員の負傷・疾病・障害又は死亡時に対して従業員やその家族に支払われる保険制度のことです。
仕事中の病気やケガ、通勤途中の事故によって病院へ行く場合、窓口で労災保険を使うことを申し出ることで、原則、治療費は無料になります。
労災保険は正規雇用・非正規雇用を問わず、アルバイトを含めた従業員全員に適用されます。さらに法人・個人事業主を問わず、従業員を雇用している事業者は労災保険へ強制加入となっています。
1日だけの雇用であっても、勤務時間が短い場合であっても、学生であっても従業員として働いているなら適用対象です。
労災請求をする際、会社が協力してくれない場合は、労働基準監督署へ相談してください。

怒られる

不当な理由で一方的に解雇はできない

労働契約法上、アルバイト先が一方的に解雇することはできません。解雇するには社会通念上「解雇せざるを得ない」と判断される客観的な理由が必要です。
社会通念上「解雇せざるを得ない」と判断される客観的な理由とはどのようなものかというと、4パターンあります。

通常解雇

信頼関係が崩れたことが原因で、雇用者が従業員を解雇するものです。理由としては無断欠勤が非常に多い、できるといったことができない、指導をしても改善しないなどが挙げられます。
ただし、これらは雇用者の主観によるものなので、不当解雇として訴訟されるケースもあります。

懲戒解雇

会社が従業員を懲戒する処分として最も重いものになります。会社内で犯罪行為を働いて刑事罰に該当した場合に適用されるもので、直ちに解雇されるのが一般的です。

論旨解雇

本来は懲戒解雇にすべきところを、従業員に反省の意思が見られることから、解雇理由を本人に説論して解雇するもので、処分が軽くなったものです。

整理解雇

業績不振に陥った会社が人員整理のために行う解雇です。労働者に非がないので、会社は整理解雇の条件を満たす必要があります。

不当解雇にあってしまったら

突然、解雇といわれてしまった場合、ほとんどの人は驚きショックを受けるでしょう。このような場合、冷静になることが大切です。
その上で解雇理由に身に覚えがない場合や、納得がいかない場合は、求められるがままに退職同意書にサインしたり、退職届を提出してはいけません。
「明日からこなくていい」といわれた場合でも、「わかりました」と同意する返事をしないようにしましょう。
正当な理由なく解雇された場合、不当解雇といいます。不当解雇は法律で禁止されていますので、理由を尋ね、アルバイトを始める前にもらった就業規則にある解雇や懲戒解雇に関する既定のどの項目に当てはまるのか確認しましょう。
理由を教えてくれない場合は、会社に解雇理由の開示を求めることが可能です。一人でアルバイト先と交渉するのが不安な場合、解雇通知書と解雇理由証明書の交付を求め、労働基準監督署へ相談してみましょう。
また、労働基準法には解雇する場合、30日前に解雇欲をしなければならないという規定があります。
30日以前に予告することなく解雇した場合、解雇予告手当という30日以上分の平均賃金を支払う義務があり、アルバイトでも同様です。

退職希望の拒否や一方的なシフトはNG

一方、こちらから退職を希望した場合、アルバイト先は退職を拒否できません。
契約期間を定めず労働契約を締結している場合、原則として労働者はいつでも退職を申し入れることが可能です。この場合、退職の申し入れから2週間経過すると労働契約が終了します。
シフトについては同意を得ずに一方的に変更・決定してはいけません。労働条件の明示で義務付けられていて、あらかじめ通知する必要があり、変更には事前の同意が必要です。
また、雇用主の都合で労働時間の全部または一部を休業させた場合、労働者に対して平均賃金の6割以上となる休業手当を支払います。
特に学生はテスト期間中、シフト設定に配慮してもらう必要がありますので、この点は確認しておきたいポイントです。

過度なペナルティを設けるのは違法

労働基準法の第91条には、制裁既定の制限という項目があります。この条文には「就業規則で労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払い期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」と記載されています。
減給のルールを定めるのは雇用者ですが、労働基準法で過度なペナルティを科すのは禁止です。例えば、何日も遅刻しているからと1日の賃金を減らすのは違法となります。

労働基準法においてアルバイトであっても、労働時間や休憩、有給休暇、減給の制限、最低賃金など多くのことが定められています。
労働基準法でその権利がしっかり守られていることを理解し、アルバイトで不当な扱いを受けないように気をつけましょう。